今週の一冊『友だち幻想 人と人とのつながりを考える』
(本日のお話 2711字/読了時間3分半)
■おはようございます。紀藤です。
昨日は、コーチングのワークショップ(応用編)に参加。
”人の視線の動き”などについて学びました。
面白い物で、
・過去のことを考えると、先が左側に行き、
未来のことを考えるときは、自然が右側に行く。
・視覚イメージをするときは上寄りを見つめ、
身体感覚を思い出すときは下を見る傾向
が、統計的にあるそう。
FBIの捜査官などが、相手の視点の動きで心理を読むそうですが、
相手の思考を考えるためのヒントはたくさんあるものですね。
(皆でやってみると、その傾向が本当に出て面白いです)
*
さて、本日の話です。
毎週日曜日は、お勧めの一冊をご紹介する、
今週の一冊のコーナー。
今週の一冊は、
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『友だち幻想 人と人とのつなりを考える』
菅野 仁 (著)
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です。
■この『友だち幻想』なる本、
実は中学、高校生向けに書かれた本です。
しかしながら「人と人とのつながり」を考える上で、
実に深く、本質的な話が書かれているため、
大人にとっても興味深く読める一冊。
人は社会的な生き物ですから、
誰しもが「人との繋がり」の中で生きています。
職場、プライベートの人間関係が気になる人にとっても、
多感な時期を迎えているお子さんを持たれている親御さんにとっても、
参考になる本ではなかろうかと感じる本です。
■では、この本には、
一体何が書かれているのでしょうか。
それは、
”「現代社会に求められている親しさとはどのようなものであるか」を捉え直そう”
それが本書の目的であるそうです。
つまり、「友だちって何?」というやつですね。
私達大人になると、
「友達で悩む」ということは少なくなりますが、
特に学生の頃は、実に切実な問題です。
■この本の冒頭に、ある調査結果が紹介されています。
”日本青少年研究所「高校生の力に関する調査」”において、
ある調査が行われました。
日本、アメリカ、中国、韓国の高校生に、
「Q,若いうちにぜひやっておきたい事は何ですか?」
という質問をしたそう。
すると、日本の高校生は、
「一生付き合言う事を得たい」
「色々な人と付き合って人間関係を豊かにしておきたい」
と答える人がかなり高い割合になったそうです。
では、他の国の高校生はどうか?
もちろん「友達は大事だ」という意識は強いものの、
その他にも「偉くなりたい」とか「自分を磨きたい」と言う、
未来に対してアグレッシブな意見が多く見られました。
一方それに比べて日本の高校生は、
「偉くなりたいと思わない」
「そこそこ生活できればいい」という、
将来に対する醒めた意識が他の三国に比べて目立つ一方で、
「友達重視志向」の傾向が突出して高い、という結果になった、
とのこと。
■一方、「友達重視」と言いつつも、
現実を見てみると、
・メールを即レスしないと、仲間から外されるかも
・みんなと一緒にいないと何か陰口言われるかも
・別に一緒にいて楽しいわけじゃないけどとりあえず一緒にいる
というような、「人と人とのつながり」によって、
縛られている、息苦しさを感じている、という状況が、
頻繁に起こっているのが日本である。
もちろん学校だけではなく、
ママ友のつながりや、PTAの集まりなど、
至るところでその片鱗が見られるようです。
(なんとなく、女性社会に多いように思いますが)
どうやら、求める理想と現実にはギャップがあるようだ。
では、そもそも「人と人とのつながり」とは何か?
そんなことを根本から見直してみようではないか、
ということが『友だち幻想』のテーマとなっています。
■本書の構成としては150ページほどで、
非常に読みやすい内容になっています。
しかしながら、
著者が社会学を専攻している大学の教授であるため、
所々に社会学的理論が入っているのが面白い、
説得力を持って、客観的に今の問題を捉えさせてくれます。
例えば、著者によれば、
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『人間の幸福にとって本質的なモメント(契機)』とは、
1、自己充実(=自分の能力が最大限発揮する場を得て、やりたいことができる)
2、他者との交流
{1}交流そのものの喜び(=愛しい人、好きな人と一緒にいる)
{2} 他者から承認される喜び(=認められる)
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であるため、やっぱり、
”人との関係は、幸福の実現のために必要なものだ”、
と語り、一方、そんな幸福の源泉になっている他者は、
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1 自分を脅かす怖い存在としての他者(傷つけられるかも)
2.生の味わいの源泉としての他者(褒められる、認められるなど)
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という2つの側面を持つ。
「幸せ」に必要だけど、
「恐ろしい」という点もある他者という存在。
その「二重性」に振り回されてしまうのが人間、と語ります。
■その他にも、光と影がある、
他者との複雑な繋がりの例や理論、一般的な感覚として、
・自分より優れた人に対する嫉妬・反感・恨み(ルサンチマン)
・みんなで仲間外れをして、親しさを確認する(スケープゴード理論)
(一方、次はいつ自分が対象になるのかとビクビクする)
・「1年生になったら友達100人できるかな」と歌に見られる、
仲良くすることに対する同調圧力
・話せばわかる、という親しくなることを推奨する幻想
などを紹介して、
「人と人とのつながり」の難しさを見つめていきます。
読んでいて、そうだよなあ、あるある、
と興味深く読める本です。
■この著者は結論としては、
『他者は、あくまでも他者。
あくまで自分と違うことを心底認識した上で、信頼感を作ること』
(※家族、親子、恋人であるほどそう。
特に親子は同一性→他者に関係が変化していくため努力が必要)
であり、そしてそれを土台とした上で
『親しさと敵対と、そして「態度保留(距離を置く)」
の3つの状態を認め、人と付き合う』
こと。
このことを、現実的な人付き合いの仕方として、
考慮していこう、と語るのでした。
■おそらく、大人になってくると、
自分と他者は違うと言うことを骨身に染みて感じるため、
上記の話も「当然じゃないか」と思うかもしれません。
しかしながら、意外とこのようなシンプルかつ、
当たり前と思えることを見落としがちなのも、また事実ですし、
若かりし頃はなかなかその”当たり前”も気づけないもの。
ゆえに、組織でも、その他の集まりでも、
「人と人とのつながり」に何かしらの疑問や不安を抱えている方は、
参考になると思いますし、
友達関係に悩まれている多感な子どもたちにも、
是非オススメしたい本。
みんなと仲良くする必要、全然ないよな、、、と
いい意味で割り切れる一冊です。
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<今週の一冊>
『友だち幻想 人と人とのつながりを考える』
菅野 仁 (著)
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